噛み合わせと聴力の研究の歴史
- 2023年7月22日
- 噛み合わせ,噛み合わせが悪いと出る症状,耳症状
噛み合わせと聴力の歴史
噛み合わせの異常が耳症状を引き起こすことは、ここ数年広く一般化してきました。初診の患者さんでも、耳症状を主訴にいらっしゃる方も年々増加しておりますし、耳鼻科の先生から噛み合わせを調べてほしいと患者さんを紹介していただくケースも年々増えています。
当然、耳の症状が起きた時に一番初めに受診すべきなのは「耳鼻咽喉科」です。
最近では当たり前となってきている噛み合わせと耳症状の関係ですが、今回はその歴史についてお話していきます。
咬合関連聴覚障害と野口英世
左)野口英世 右)血脇守之助
はじめに歯科と耳鼻咽喉科の疾患の関連が言及されたのは1898年(明治32年)です。
アメリカに渡った野口英世から、当時の東京歯科大学の学長血脇守之助宛てに当時のアメリカでの歯科と耳鼻科の関係性に関する研究報告が送られます。その内容は「虫歯治療の前後で聴力に改善がみられるという報告がある」といったものでした。当時の歯科学報(歯科医学叢談4巻2号)に「歯科ト耳科トノ関係」という論文として掲載されています。
その後、1934年アメリカの耳鼻科医コステンが「歯を抜いた後、聴力に変化が出る」という論文を発表しました。一時期は「コステン症候群」という名前が用いられ、その治療法が期待されていましたが、1943年、アメリカの歯科医師シャピロにより否定されます。当時は検査する機械が無かったことなどからコステンの治療法が証明されず、否定されてしまいました。
顎関節症状と耳症状
1960年代ごろより、日本では歯科領域において、顎関節症の研究が盛んとなり、歯科大学の口腔外科が中心となって研究されてきました。以前は顎関節症は①顎の痛み②顎の音③開口障害 のみが症状とされ、口腔外科で対応されていました。1970年頃から、顎関節症の治療や、歯科治療に伴い、顎関節症状以外にも様々な症状が改善するという報告が臨床家の間でされるようになります。そのなかには耳症状も含まれます。それらの症候群を、日本全身咬合学会や顎咬合学会などの学会で研究しています。
長坂歯科の研究
たまたまみつけた聴力と歯科の関係
長坂歯科では代々、歯科治療を行うにあたり、全顎のバランスを考慮した治療を心がけていました。ある日、「歯科治療で耳症状は改善しますか?」という質問を患者さんからされました。その患者さんによると、当院で歯科治療を行った直後から、長年悩んでいた原因不明の難聴が改善したとのことでした。当院ではわからないので、大学病院の耳鼻咽喉科に診断依頼をしたところ、難聴が改善し正常値に戻っていたとのことでした。
治療前後の聴力の比較
1990年頃、長坂歯科院長長坂斉が、オージオメーターによる聴力測定を基準とした歯科治療の研究を進めます。東京歯科大学や東北大学との連携による研究により、2000年、聴力と歯科治療の関係を数値で確認し、1934年以来否定され続けていた、歯科と聴力の関係を立証することに成功しました。オージオメーターの結果をもとに、歯科疾患と聴力の関係を脳磁計を用いて確認します。
噛み合わせが聴力に与える影響について、東京歯科大学衛生学講座にて統計学的研究が行われ、噛み合わせの異常が聴力低下に影響を及ぼすことが統計学的にも確認されました。
これらの研究はシドニーで開催されたFDI(国際歯科学会)で発表され、歯科と耳鼻科の疾患の関係が初めてエビデンスに加えられました。
それ以来、長坂歯科では噛み合わせ治療の際「聴力」を指標としながら歯科治療を行っております。