長坂 斉

国際歯科学士会日本部会雑誌
第44巻1号 2013年9月

1.はじめに

 歯周病の原因の一つに早期接触による負担過重や、血行循環障害などから発生する歯周ポケットの形成などがあり、そのため歯周病菌が多く発生し、プラークコントロール1)を中心とした処置が有効であると考えられ歯周病処置が行われている。
 多くの場合プラークコントロールを行うことで、その症状は軽減するが、中には、プラークコントロールのみでは、その進行を抑制することが困難で、歯肉剥離掻爬術や歯肉切除術などの外科的処置、さらには抜歯に移行する難治性歯周病(表1)症例が多いのも事実である。
 今回、長期間歯周病の治療を行いつつも完治せず、咬合関連症2)、顎関節症3)の治療に順ずる、オージオメータ4)による偏位咀嚼部位の特定とそのデータに基く、咀嚼機能改善のための歯科処置、および咀嚼指導を行った結果、難治性の歯周病、歯槽骨の改善と同時に、頭痛、肩こりなどのいわゆる咬合関連症に伴う症状の軽減が同時に起きている複数の事例を確認した。
 咬合関連症や顎関節症の治療の目的で、歯周病があり同時にTMD5)を訴え、当院に通院する患者の初診時、口腔内疾患の状況、TMDの有無と種類(表2)聴力測定6)による偏位咀嚼部位の診査、ならびにパノラマ画像において調査を行ったところ、かみ癖や疾患などによる偏位咀嚼部位に歯槽骨垂直吸収が限局して存在すること、また非偏位側においては、主として水平吸収が多く見られ、同時に聴力測定を行ったところ、過去我々が、論文において報告を行った7〜 8)ように、偏位咀嚼部位に聴力低下、非偏位咀嚼部位においては聴力の亢進が見られた。(図1-A・B)

 このような症例に対し、歯科疾患の改善処置や、咀嚼指導などによる、偏位咀嚼部位の改善処置を行い、約半年から一年経後、再度パノラマレントゲンを撮影すると、偏位咀嚼部位の垂直吸収の減少および、非偏位咀嚼部位の水平吸収程度に改善が多く見られること、また、主訴であるTMD症状の減少および聴力値におけるスタビライジング、イコライジング9)効果が確認された10)。聴力と咀嚼の関連を(図2、図3)に示す。
 この事実から考えられることとして、噛みすぎている側(偏位咀嚼側)においては、その部位における負担過重が原因であるとともに、噛めていない側(非偏位咀嚼側)では、咀嚼による食物による歯肉のマッサージ効果いわゆる自浄作用の欠如により、局所血行縦貫障害が起こることが、歯周ポケット発生の大きな原因のひとつと考えられる。
 聴力による咀嚼部位の判定基準を(表3)に示す。
 そのため、咀嚼指導などによる、咀嚼機能バランスを考え実行することは、口腔全体の機能を正常化し、血流循環も同時に正常になることで、歯の周囲組織の再活性化のみならず顎関節をはじめとする、聴力など周辺部位の機能正常化に関与する可能性が多いと考えられる11)
 今回第一報として、頭位の変化と骨吸収像がパノラマレントゲン比較画像において、劇的に変化した症例を紹介する。


2.緒 言

 現在、歯周病の処置として、一般に行われていることは、歯石および歯苔の除去いわゆる、プラークコントロールに始まり、状況に応じて、歯肉切除や剥離掻爬などの手術に移行し、さらに歯牙動揺に対しては、暫間固定などで、対処する治療が主流である。


 今回の症例は、他院にて歯周病の治療を、プラークコントロールなど通常一般的な処置などで、長期受けていたが、治癒傾向になく、抜歯などを勧められた症例で、併せて頭痛、肩こりなどの咬合関連症や顎関節症状などを訴える症例を対象に、オージオメータの値から咀嚼状況を判定し12)、その原因と考えられる偏位咀嚼が原因の早期接触部位の除去による局所加重負担の軽減処置や、補綴処置による咬合状態の改善、さらに非偏位咀嚼部位の咀嚼機能による自浄作用の回復を目的とした、咀嚼指導(図4)による咬合咀嚼機能バランス改善処置を行った結果、多くの症例に、歯周病組織の改善(歯槽骨の水平、ならびに垂直吸収像の再生や出血排膿など症状の改善)ならびに、咬合関連症状の軽減13)、さらにオージオメータによる聴力値の改善14)が多くみられた。
 歯科疾患や、噛み癖などが原因の偏位咀嚼15)、特に、左右大臼歯部に多い、噛みすぎ側は、特定の歯牙に早期接触をおこし、特定の歯牙に過大な負担をかけることになる。
 この負担過重は、歯牙周囲組織の炎症に発展し、血流循環障害をおこすため、その歯の周囲組織の垂直吸収が起きてくる。
 また、前歯など通常咀嚼に使用しない、非偏位側においては、使用しないことによる障害が起きると考えられる。それは、咀嚼運動に関連した食物による自浄作用であり、また使用することで歯周が刺激を受ける、つまり、食べ物の流れによるマッサージ効果の欠如が水平骨吸収の原因と考える。
 このような噛み癖の特徴を知りそのバランスを整えることで、歯牙周囲組織の機能が正常化し、疾患の軽減に関与するものと考える。

3.方 法

 当院、および他院にて、長期間通常のプラークコントロールを基本とした歯周病の処置を行っているが、回復に至らないいわゆる難治歯周病患者に対し、治療開始前のパノラマおよびデンタルX線写真による、歯槽骨の吸収状況を計測する。
 次に、オージオメータにて、その値から、偏位および非偏位咀嚼を特定し16)、暫間固定や、補綴物による歯科治療を行い、咬合バランスを整えた上、咀嚼指導を行うことにより、咬合咀嚼機能の均等化を図る。(表4)
 さらに、オージオメータ測定値や、レントゲンの骨吸収の程度などから、治療各段階における偏位咀嚼状況を判定し、患者自身に咀嚼に関してのその時々に対応した咀嚼指導を行う17)
 オージオメータの基準18)に関しては(図3)に示す。
 歯科治療は通常歯科で行われる、補綴、保存処置、さらに暫間固定などは必要に応じて行う。
 約半年後2度目のパノラマX線をとり、歯槽骨の変化を測定し、その変化から歯周病の改善か否かの判定を行う。
 治療方法およびその手順を表5、表6に示す。


4.結果

 症例1
 他院にて歯周病の治療のため、通常のプラークコントロール処置を2年間受けていた60代男性で、左側上下顎第二大臼歯が突如急性転化し、抜歯を勧められたため、当院に転院してきた患者で、X線パノラマ写真は(写真1)に示す。
 顎関節症として、開口障害(2.5横指)右側開口時疼痛ならびにクリック音が確認された。
 ならびに、咬合関連症状の頭痛、肩こり、首の回転運動制限、および腕運動機能の障害が認められる。
 パノラマ画像によれば、左右側上下顎第一小臼歯から第二大臼歯の歯槽骨吸収は著しく、特に左側の上下第二大臼歯の歯牙動揺は、M3程度で、歯肉の炎症性の腫脹および疼痛が見られた。
 偏位咀嚼状況の判定のための第一回目オージオメータ検査を行う。(図1-A)


 測定値によれば、左側125Hzから4,000Hzに至るまで、左側の低下が起きており、左右特に、左側大臼歯部偏位咀嚼、および非偏位咀嚼部位は左右小臼歯特に左側であることが判明した。
 緊急処置として、咬合咀嚼バランス改善のための暫間義歯を左上欠損部に作成し、左側の負担加重咬合改善を行ない、咀嚼指導により、咬合咀嚼バランス改善処置をおこなった。咀嚼指導部位、左右小臼歯部にコットンロールにより、20回程度疑似咀嚼運動を行い、第2回目の聴力測定を行い、聴力のスタビライジングおよびイコライジングが確認された。(図1-B)
 さらにバノラマ像から歯槽骨吸収部位は上下顎の接触面積が大きく、歯槽骨吸収が著しく、前歯部に至っては、全く接触していない状況で、歯軸が上下共前方に傾斜し、切端咬合になっており、当然前歯部での咀嚼運動が行いにくい構造のため、左右大臼歯だけで噛む習慣があったことが伺われる。
 また、術前口腔写真(写真7)から前歯正中線が左側に傾き、頭位全体が左に偏移していることが確認できる。
 その時点でのTMD(表2)は右側の頭痛、肩こり、右腕のしびれ、左腰痛、さらに聴力計計測値で見られるように左側の聴力低下が見られた。(図1-A)
 聴力の値から偏位咀嚼側は左右特に左臼歯部、非偏位側は小臼歯部であると診断を行い、左右小臼歯部において、コットンロールによる咀嚼指導を行なった結果、(図1-B)に示すように、聴力のスタビライジング・イコライジングが確認された。
 患者に咀嚼に関しての意識を聞いて見たところ、噛むのは奥歯で、と考えているとのことで、当日咬合調整および暫間固定とともに、奥歯のみで噛まないように、左右前後均等に噛むという咀嚼指導を行った。(図4)
 写真2に約半年後のパノラマ画像を示す。
 写真3〜 6A〜 Cに初診時から治療終了時までの左右および上下のデンタル写真を示す。



 (写真7)に術前口腔写真正面観、(写真8)に術後正面比較写真を示す。
 上下、大臼歯部は、歯牙固定を兼ねた補綴処置を行っている。
 早期接触を起こし歯槽骨の吸収が見られた、左側上下第二大臼歯、下顎第二小臼歯から第二大臼歯までの歯槽骨の再生が見られるとともに、正中線が垂直になり、頭位の左側偏位が矯正されたことが比較することで、確認できる。
 (写真9A)は術前左側の口腔内状況であり、歯肉退縮が著しい、術後の同部位の改善状況を(写真9B)に示す。(写真10)に右側上下顎完了時点の口腔内歯周状況を示す。(写真7)と比較し右側大臼歯歯根部露出の改善がみられる。
 頭位が正常になったことで、開口障害の改善(2.5横指から3.5横指)クリック音の消失また、頭位置に関連する体の、左右差が原因のTMD、頭痛、肩こり、腰痛の減少、咀嚼指導の結果バランスの良い咀嚼に関連した、歯槽骨周辺の血行縦貫障害解消による、出血傾向の減少が確認された。(表7)


5.結 論

 咬合関連症や顎関節症の診断や治療に我々はオージオメータを使用し、偏位咀嚼改善を行い、効果をあげているが、その手段を使用し、今回難治型歯周病治療に応用した結果、吸収した歯槽骨の改善が起きることがバノラマ比較画像から視覚データとして確認されると同時に、体バランスの改善を行うことで、頭位に関連する、咬合関連症、ならびに顎運動機能異常からくる、顎関節症状が減少することが認められた。

6.考 察

 歯周病の原因の一つに従来より、早期接触による外傷性咬合が挙げられているが、偏位咀嚼が原因であることは、考えるに易い事である。
 咀嚼バランスは、①頭位の安定を行なうことで、左右的および前後的姿勢を整えることから、首の左右運動領域および腕運動機能の均等化を起こすものであり、②顎運動の均等化は顎関節の均等な動きに対し、関節直上に存在する、耳の機能に影響を与えるため、聴力を測定することで、正常咀嚼か否かの判定に用いることが出来る。(表8)
 咀嚼バランスの均等化により、偏位咀嚼部位における、負担過重の改善や非偏位咀嚼部位、歯周組織における、自浄作用による血流が改善された結果、吸収を起こしていた歯槽骨の再生が短期間の内に起こったものと考えられる。(図5)
 長期間治癒が認められない難治性歯周病における、歯槽骨再生のための条件の一つに聴力をはじめとする、全身機能をセンサーとした、咀嚼指導が大いに役立つ事が示唆された。

参考文献

1) 森下真行.官城品治.島津篤.ほか:歯学部生のブラッシング習慣とプラークコントロールの状況 口腔衛生学会誌.48: 277-284. 1998
2) 吉田友明:いわゆる咬合関連症候群の症状と診断.全身咬合. 1 : 123-126, 1995.
3) 佐々木啓一.渡辺誠:顎関節症と耳症状,日本歯科医師会雑誌.52:15-26,1999.
4) 長坂斉.松久保隆.石川達也.中村昭二.星詳子:聴カオージオメーターにて検証するオクルーザルパワーゾーンー聴力は咬合のセンサーー.全身咬合.2002,82):31-38
5) 松本俊彦.Tympanometoryによる顎機能異常の客観的評価. 補綴学会誌3. 34 : 1059-1065 1990.
6) 長坂斉.佐藤亨.高江洲義矩.石川達也:咀嚼習癖に起因する聴力の変化,歯科学報.100(5):491-498.2000.
7) 長坂斉.松久保隆.佐藤亨.小林魏昌.高江洲義矩.石川達也:歯科処置による聴力の均衡化,全身咬合学会誌.8.1.2002
8) 長坂斉.佐藤亨.高江洲義矩.石川達也:聴力は咬合のセンサーか(2). 日本歯科評論.vol.61 Nol.(2001‐6)
9) 長坂斉.佐藤亨.高江洲義矩.石川達也:聴力は咬合のセンサーか.日本歯科評論,61:1-9,2001
10) 長坂斉.中村昭二.青木聡.星詳子.松久保隆.石川達也:咬合と聴力に関する臨床的研究(1) 噛み癖が及ぼす聴力低下とその客観的診断法(オージオメータ):日本顎咬合学会東京.2003-6-29
11) 長坂斉.松久保隆.高江洲義矩.石川達也.中村昭二.鈴木宏和.星詳子:下顎運動バランス測定器としてのオージオメータの有効性(1). 日本口腔衛生学会(大阪).2003.9.13-14
12) 長坂斉.中村昭二.青木聡.渡辺誠.永原邦茂.星詳子.松久保隆.石川達也:咬合と聴力に関する臨床的研究(4) 咬合関連聴力低下の偏位咀嚼の分類(試案)からみた臨床検査.全身咬合.9(1):22-30.2003
13) 佐々木琢磨.中村昭二.等々本英文.鈴木宏和.星詳子.長坂斉.松久保隆.石川達也:咬合と聴力に関する臨床的研究,その3,オージオメータによる偏位咀嚼診断法の検証
14) 長坂斉.松久保隆.高江洲義矩.石川達也.中村昭二.鈴木宏和.星詳子:下顎運動バランス機能測定器としてのオージオメータの有効性(1).口腔衛生会誌5.2:586-587.2002.
15) 長坂斉.中村昭二.青木聡.星詳子.松久保隆.石川達也:咬合と聴力に関する臨床的研究(1) 歯み癖が及ぼす聴力低下とその客観的診断法(オージオメータ):日本顎咬合学会東京,2003-6-29.
16) 中村昭二.長坂斉.青木聡.星詳子.渡辺誠.松久保隆.石川達也:咬合と聴力に関する臨床的研究(2)オージオメータからみたオクルーザルパワーゾーン咀嚼による聴力回復:日本顎咬合学会東京.2003-6-14〜15
17) 中村昭二.永原邦茂.長坂斉.松久保隆.渡辺誠.石川達也:顎関節症の新しい咀嚼機能診断装置としてのオージオメータの有効性.第16回日本顎関節学会鹿児島.2003-7-10〜11
18) 長坂斉.中村昭二.青木聡.渡辺誠.永原邦茂.星詳子.松久保隆.石川達也:咬合と聴力に関する臨床的研究(4) 咬合関連聴力低下の偏位咀嚼の分類(試案))からみた臨床検査.全身咬合.9(1):22-30.2003.

●抄録●

オージオメータによる偏位咀嚼の計測と、それに伴う咬合咀嚼バランス改善による歯槽骨の再生
/長坂 斉

 プラークコントロールを中心とした、通常の歯周病処置を長期間行ったにも関わらず治癒に至らず、最終的に抜歯に至る、いわゆる難治性歯周病症例において、咬合・咀嚼バランス異常が原因と考え、顎関節症治療の治療に順ずる聴力をセンサーとした偏位咀嚼の特定とそのデータに基く咀嚼機能改善のための歯科処置および咀嚼指導を行なった結果、難治性歯周病の歯槽骨の改善と同時に、頭痛、肩こりなど顎関節症・咬合関連症に伴う症状の改善が同時に起きている複数の事例を確認したので紹介する。
 これらのことから、難治性歯周病を治療する際、除石などのプラークコントロールを行なうと同時に、早期接触による負担過重などの改善目的での歯科処置および咬合咀嚼運動バランス指導をおこなうことが、歯槽骨再生を含めた、難治性歯周病の治療に有効であることが示唆された。

キーワード:聴覚、咬合バランス、咀嚼指導、歯周病

Measurement of Ectopia Mastication with an Audiometer,
and its Collateral Improvement of Occlusion Mastication Balance Resulting
in Alveolar Bone Regeneration

Hitoshi NAGASAKA, D.D.S., F.I.C.D.

In terms of so-called refractory periodontal disease. which finally leads to tooth extraction in spite of a long-term regular periodontal treatment primarily with plaque control, we have implemented, assuming that one of the main causes should be imbalance abnormality of occlusion and mastication, the identification of ectopia mastication with hearing as the sensor conforming to treatment of temporomandibular disorder and the dental treatment and mastication instruction to improve mastication function based on the identified data. As a result, we have confirmed some cases in which, in addition to the improvement of alveolar bones in refractory periodontal disease, the improvement of symptoms such as headache and stiff shoulder accompanied by temporomandibular disorder and occlusion related disorder have simultaneously been observed.
Consequently it was suggested that, when treating refractory periodontal disease, along with plaque control of tartar removal, the dental treatment for alleviating excessive load due to early contact and the instruction of occlusion and mastication movement balance should be effective for the treatment of refractory periodontal disease, including alveolar bone regeneration.

Key words : Hearing, Occlusion balance, Mastication instruction, Periodontal disease